[銘柄分析] ブリティッシュ・アメリカン・タバコの銘柄分析 | 過小評価された株価
作成日: 2023年05月14日
更新日: 2024年09月07日
はじめに
今日ご紹介する銘柄はブリティッシュ・アメリカン・タバコ(LSE: BATS, NYSE:BTI)です。
タバコ株はSin stock (罪ある株) | investopediaの代表例で、一部の投資家から忌避される傾向にあります。
2017年6月ごろに73USDの高値をつけて以降、投資家から売られ続け、2018年12月には31USDにまで下落してしまいました。
(54%ほどの下落)
この後、コロナが流行した2020年から現在に至るまで、株価は持ち堪えている印象です。
喫煙者はコロナが重症化しやすいことから、タバコ株の悪印象がさらに広まり売られるのかなと思っていたので、直近の株価が安定している(低迷しているとも言えますが)のは個人的に意外でした。
また、日本株のJT同様、NYSE:BTI (BTI:US)| Bloombergは高配当株として知られ、2023年5月現在の配当率は8.3%にもなります。
この高配当率ばかりが注目されますが、この記事ではブリティッシュ・アメリカン・タバコの企業分析を通して買うべきかどうか考えてみます。
ブリティッシュ・アメリカン・タバコの銘柄分析
まず、ブリティッシュ・アメリカン・タバコの定性的な面から企業分析をしてみます。
ブリティッシュ・アメリカン・タバコの事業
ブリティッシュ・アメリカン・タバコは1902年創業のタバコ会社です。
さまざまな銘柄ブランドのタバコ製造・販売を世界各国で販売しています。
日本だとケントやラッキーストライクが人気ですね。
最近だと紙巻きタバコより健康リスクを抑えた"New Categories"を盛んに開発・販売しています。
ニコチンやタール量を抑えたベイプが日本でも人気です。
全米No.1(*1)のベイプブランド「Vuse」が4月17日(月)より日本初上陸 ニコチンゼロの「Vuse Go」、約1万本の数量限定でAmazonにてテスト発売 | PR TIMES
また、煙を出さずにタバコを楽しめる加熱式たばこ専用デバイスなるものを発売しています。
日本だとglo(TM)を吸っている人をよく見かけますね。
世界に先駆けて日本から発売開始する新世代のglo(TM)デバイス「glo(TM) hyper X2(グロー・ハイパー・エックス・ツー)」が新登場! | PR TIMES
このように、タバコに対する悪いイメージを払拭できるように企業努力を行っている印象です。
ブリティッシュ・アメリカン・タバコの事業を身近に感じられるだけに、理解しやすいと思います。
ブリティッシュ・アメリカン・タバコのマネージメント
2018年、ブリティテッシュ・アメリカン・タバコはアメリカのタバコ会社であるレイノルズ・タバコ・カンパニーを買収しました。
BAT agrees to buy Reynolds for $49 billion | REUTERS
このことで、アメリカのタバコ市場における競争力やタバコ銘柄を構成するポートフォリオを強化するとともに、レイノルズが販売していた電子タバコであるVuseを獲得しています。
この買収は前述したタバコに対する悪いイメージを払拭する結果に繋がっています。
理性的な経営をおこなっていると言えそうです。
ブリティッシュ・アメリカン・タバコの収益性
Yahoo! financeによると、ブリティッシュ・アメリカン・タバコのROE(純資産利益率)は12.19%です。
British American Tobacco p.l.c. (BTI) | Yahoo! finance
これは低い数値で、日本企業並みの低さです。
会社のROEが低いということは、会社の株主が出資した資本に対して効率的に利益を挙げられていないということになるので、収益性に劣り、ひいては株主の資産を増やすスピードが遅いということに繋がります。
ブリティッシュ・アメリカンタバコの財務健全性
財務健全性について、負債(Total Liabilities)はUK£78B、自己資本はUK£75Bなので、D/E ratioは1.04と健全な値と思います。
Debt-to-Equity (D/E) Ratio Formula and How to Interpret It
ただし、2022年末時点で現金及び現金同等物(Cash, Cash Equivalents & Short Term Investments)がUK£4Bあるのに対し、流動負債がUK£19B、固定負債がUK£59Bもあるのには注意した方がよいでしょう。
British American Tobacco p.l.c. (BTI) | Yahoo! finance
いま保有している現金全額をもってしても負債を到底返済しきれないので、この点ではリスクが高い銘柄と思います。
ただし、現金と負債の関係だけを見ても、企業の安全性を正しく測れないこともあります。企業の事業がキャッシュを創出する能力を考慮していないからです。
ブリティッシュ・アメリカン・タバコのキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)
キャッシュを創出する能力を測る指標の一つがキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)です。
キャッシュ・コンバージョン・サイクル (CCC)とは、原材料や仕入に現金を投じてから売上になり最後にキャッシュに変換されるまでの日数の目安です。CCCが低いほどキャッシュを創出する能力が高く、資金繰りが安定しやすいことを示します。
CCCは以下の式で計算されます。
CCC = 在庫回転日数 + 売上債権回転日数 - 仕入債務回転日数
# British American Tobacco Industries, p.l.c. Common Stock ADR (BTI) | NASDAQから、これらの値を計算してみました。
在庫回転日数 | 売上債権回転日数 | 仕入債務回転日数 | |
---|---|---|---|
12/2022 | 266日 | 59日 | 541日 |
このデータから、2022年12月時点でのBTIのCCCは-216日と計算されます。在庫は総資産に対してわずか3.6%と小さいのにも関わらず、在庫回転日数は大きいですが、それ以上に仕入債務回転日数が非常に大きいですね。これは、BTIが債務を返済するまでの日数が長いことになるので、非常に有利な条件でビジネスをしていることになります。このおかげでBTIのCCCは-216日と非常に小さく、BTIのキャッシュを創出する能力が高いのと、資金繰りにも優れることを示唆します。
そういうわけで、BTIは事業がキャッシュを創出する能力が高いので、多量のキャッシュを保有せずとも大丈夫、というわけなのかもしれません。
ブリティッシュ・アメリカン・タバコのフリーキャッシュフロー
最後に、ブリティッシュ・アメリカン・タバコの年間フリーキャッシュフローについてみてみましょう。
年 | Free cash flow |
---|---|
2022 | $12.25B |
2021 | $12.68B |
2020 | $11.97B |
2019 | $10.68B |
2018 | $12.78B |
2017 | $5.99B |
2016 | $5.58B |
2015 | $6.64B |
2014 | $5.35B |
2013 | $6.31B |
出典: British American Tobacco Free Cash Flow 2010-2022 | BTI
2018年の年間フリーキャッシュフローが前年比倍増していますが、これはレイノルズ・タバコ・カンパニーを買収した影響と思います。
過去14年のデータを使って過去10年のフリーキャッシュフローの年間平均成長率(CAGR)を計算すると、CAGRは5.98%になります。
高い数値ですが、レイノルズ・タバコ・カンパニーの買収以前は伸び悩んでいることに注意しましょう。
買収前(2009 - 2017)のCAGRは1.11%と相応に低い数値です。
また、買収後のフリーキャッシュフローが伸び悩んでいる点も気になります。
ブリティッシュ・アメリカン・タバコの株主価値
これまでの議論を踏まえ、ブリティッシュ・アメリカン・タバコの株主価値を以下の条件で計算してみると、企業価値は$182Bになります。
- フリーキャッシュフローに対するDCF法を用いる。
- 2022年に得られたフリーキャッシュフロー: $12B
- 年間フリーキャッシュフローの平均成長率: 1.11% (レイノルズ・タバコ・カンパニー買収前の値)
- Discounted rate: 3.9% (2023年12月18日現在の米国10年債利回りUS10Yの値)
- 事業が今後20年続くと仮定する
2023年12月18日現在の時価総額は$65Bほどなので、現在の株価は過小評価されていると言えそうです。
実際に購入する場合は、20年以上の長期保有が前提になると思います。
大きな成長を見込めない銘柄ではありますが、根強い需要を持つタバコを製造する高配当銘柄ということもあり、いがらしとしては2024年から始まる新NISAでBTIを積み立ててみると面白いかなと思っています。
新NISA口座で得られた配当は日本からは無課税です。
それに加え、BTIはADR(米国預託証券)なので、配当は米国現地課税もかかりません。
よって新NISAだと高配当を完全に無課税で享受できます。
そういうわけで、BTIは「事業が存続すれば」株主の資産を着実に増やしてくれると期待しています。
おわりに
この記事では、タバコ企業の老舗であるブリティッシュ・アメリカン・タバコの企業分析を行いました。
締め付けが厳しくなっていきそうなタバコ産業ですが、ブリティッシュ・アメリカン・タバコの場合は利益を維持・拡大するための戦略を打ち出しつつある印象です。
財務に関して、B/Sは健全と思いますが、企業戦略にも関わらずROEが低いことから収益性はよいとは言えないと思います。
年間フリーキャッシュフローも伸び悩んでいます。
その一方で、BTIはCCCが非常に低いことからキャッシュを創出する能力が高く、収益性が低いながらも安定したフリーキャッシュフローを稼いでいるとも言え、企業価値の推定値に対して現在の株価は過小評価されていると考えています。
投資家としては、ブリティッシュ・アメリカン・タバコの今後の生き残りに賭ける企業戦略を注視しつつ、株価の低迷期である現在に少しずつ買っておくと、高配当ということもあり長期的にはよい投資になると思っています。