作成日: 2023年05月14日
更新日: 2025年02月18日
今日ご紹介する銘柄はブリティッシュ・アメリカン・タバコ(LSE: BATS, NYSE:BTI)です。 タバコ株の一角でもありますが、配当利回り8%前後の高配当株でもあります。
BTIは2024年2月現在で配当利回り7.7%の高配当株です。利回り7.7%ということは、BTIに投資すると10年弱で投資金額が倍になるということです。 https://www.nasdaq.com/market-activity/stocks/bti/dividend-history によると、年4回$0.74もの配当を支払っています。1995年から配当し続けているため、配当の実績も十分と言えます。
さらにBTIはイギリス企業ですが、アメリカの市場に上場するADR(米国預託証券)でもあります。 後述するように、BTIの場合はアメリカでの配当課税を受けないことが大きな利点になります。
タバコ株はSin stock (罪ある株) | investopediaの代表例で、一部の投資家から忌避される傾向にあります。
2017年6月ごろに$73の高値をつけて以降、投資家から売られ続け、2018年12月には$31にまで下落してしまいました。
(54%ほどの下落)
この後、株価が持ち直す場面もありましたが、2024年4月ごろは$30前後と低迷していました。しかし、2025年初頭は決算期待からか$40前後と上昇し、決算後は$38前後で推移しています。
また、日本株のJT同様、NYSE:BTI (BTI:US)| Bloombergは高配当株として知られ、2025年1月現在の配当率は7.7%にもなります。
この高配当率ばかりが注目されますが、この記事ではブリティッシュ・アメリカン・タバコの企業分析を通して買うべきかどうか考えてみます。
まず、ブリティッシュ・アメリカン・タバコの定性的な面から企業分析をしてみます。
ブリティッシュ・アメリカン・タバコは1902年創業のタバコ会社です。さまざまな銘柄ブランドのタバコ製造・販売を世界各国で販売しています。日本だとケントやラッキーストライクが人気ですね。
最近だと紙巻きタバコより健康リスクを抑えた"New Categories"を盛んに開発・販売しています。ニコチンやタール量を抑えたベイプが日本でも人気です。
全米No.1(*1)のベイプブランド「Vuse」が4月17日(月)より日本初上陸 ニコチンゼロの「Vuse Go」、約1万本の数量限定でAmazonにてテスト発売 | PR TIMES
また、煙を出さずにタバコを楽しめる加熱式たばこ専用デバイスなるものを発売しています。
日本だとglo(TM)を吸っている人をよく見かけますね。
世界に先駆けて日本から発売開始する新世代のglo(TM)デバイス「glo(TM) hyper X2(グロー・ハイパー・エックス・ツー)」が新登場! | PR TIMES
このように、タバコに対する悪いイメージを払拭できるように企業努力を行っている印象です。
ブリティッシュ・アメリカン・タバコの事業を身近に感じられるだけに、理解しやすいと思います。
2018年、ブリティテッシュ・アメリカン・タバコはアメリカのタバコ会社であるレイノルズ・タバコ・カンパニーを買収しました。
BAT agrees to buy Reynolds for $49 billion | REUTERS
このことで、アメリカのタバコ市場における競争力やタバコ銘柄を構成するポートフォリオを強化するとともに、レイノルズが販売していた電子タバコであるVuseを獲得しています。
この買収は前述したタバコに対する悪いイメージを払拭する結果に繋がっています。
理性的な経営をおこなっていると言えそうです。
2025年のBATの純利益は31億ポンド、2025年2/16現在の時価総額は680億ぽんどなので、ROEは4.6%となります。
これは低い数値で、日本企業並みの低さです。
会社のROEが低いということは、会社の株主が出資した資本に対して効率的に利益を挙げられていないということになるので、収益性に劣り、ひいては株主の資産を増やすスピードが遅いということに繋がります。
また、2024年は減価償却費が大きすぎて純利益がマイナスになっています。これは286億ポンドもの減価償却を計上したことが主な原因で、アメリカにおけるタバコ市場の縮小や伝統的なタバコ製品の需要の低下が原因と思われます。2025年の減価償却費は31億ポンドに収まっていました。
財務健全性について、負債(Total Liabilities)は689億ポンド、自己資本は499億ポンドなので、D/E ratioは0.72になります。良いとも悪いとも言いづらい数値です。
2022年末時点で現金及び現金同等物(Cash, Cash Equivalents & Short Term Investments)が52億ポンドあるのに対し、流動負債が187億ポンド、固定負債が501億ポンドもあるのには注意した方がよいでしょう。
いま保有している現金全額をもってしても負債を到底返済しきれないので、この点ではリスクが高い銘柄と思います。 特に固定負債には気をつけた方がよいでしょう。優良企業は固定負債はあまり持たないものですし、固定負債で調達するお金は「高価」であり、定期的に支払う金利が利益を圧迫します。
ただし、現金と負債の関係だけを見ても、企業の安全性を正しく測れないこともあります。企業の事業がキャッシュを創出する能力を考慮していないからです。
キャッシュを創出する能力を測る指標の一つがキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)です。
キャッシュ・コンバージョン・サイクル (CCC)とは、原材料や仕入に現金を投じてから売上になり最後にキャッシュに変換されるまでの日数の目安です。CCCが低いほどキャッシュを創出する能力が高く、資金繰りが安定しやすいことを示します。
CCCは以下の式で計算されます。
CCC = 在庫回転日数 + 売上債権回転日数 - 仕入債務回転日数
https://www.bat.com/content/dam/batcom/global/main-nav/investors-and-reporting/results-centre/pdf/FY_2024_Announcement.pdf から、これらの値を計算してみました。
在庫回転日数 | 売上債権回転日数 | 仕入債務回転日数 | |
---|---|---|---|
12/2024 | 95日 | 3日 | 14日 |
このデータから、2022年12月時点でのBTIのCCCは85日と計算されます。売上債権回転日数は非常に高いことは特筆すべきですが、在庫回転日数が95日ということは、在庫を全て売り切るまでに3ヶ月かかるということです。BTIが日常必需品を扱っていることを考えると、 CCCや在庫回転日数はもう少し低くても良い気がします。
最後に、ブリティッシュ・アメリカン・タバコの年間フリーキャッシュフローについてみてみましょう。
年 | Free cash flow |
---|---|
2024 | $9.95B |
2023 | $12.82B |
2022 | $12.25B |
2021 | $12.68B |
2020 | $11.97B |
2019 | $10.68B |
2018 | $12.78B |
2017 | $5.99B |
2016 | $5.58B |
2015 | $6.64B |
2014 | $5.35B |
2013 | $6.31B |
出典: British American Tobacco Free Cash Flow 2010-2022 | BTI ただし、2024年のフリーキャッシュフローはhttps://www.bat.com/content/dam/batcom/global/main-nav/investors-and-reporting/results-centre/pdf/FY_2024_Announcement.pdf 記載のフリーキャッシュフローから2025年2/16現在のポンド・ドルの為替レートから計算しています。
2018年の年間フリーキャッシュフローが前年比倍増していますが、これはレイノルズ・タバコ・カンパニーを買収した影響と思います。 これらのデータを使ってフリーキャッシュフローの年間平均成長率(CAGR)を計算すると、CAGRは4.23%になります。
高い数値ですが、レイノルズ・タバコ・カンパニーの買収以前は伸び悩んでいることに注意しましょう。買収前(2009 - 2017)のCAGRは1.11%と相応に低い数値です。また、買収後のフリーキャッシュフローが伸び悩んでいる点も気になります。
これまでの議論を踏まえ、ブリティッシュ・アメリカン・タバコの内在価値(Intrinsic value)を計算してみましょう。以下のように仮定してみます。
これらの仮定からDCF法で株主価値を計算してみると、$129Bとなります。 現在の時価総額は$91Bほどなので、現在の価格で買うと24%ほどの安全域(mrgin of safety)があると言えます。
ただしこの計算ではBTIの配当を考慮していないことに注意しましょう。BTIは8%前後もの配当を支払う高配当株ですから、上の計算よりさらに内在価値を持っていると言えるはずです。
大きな成長を見込めない銘柄ではありますが、根強い需要を持つタバコを製造する高配当銘柄ということもあり、いがらしとしては2024年から始まる新NISAでBTIを積み立ててみると面白いかなと思っています。
いがらし(このブログの管理人)は、BTI株をNISA株と特定口座で300株ほど保有しています。平均取得額は$31から$33ほどです。現在は値上がり益だけでもそこそこの額が得られています。しかし、BTIは大きな成長が見込めない株ですから、自分はBTIに関してはこれ以上の値上がり益を狙うのではなく配当による利益を重視しています。ただし、ウォーレンバフェットがいうように、配当は税金がかかりますので本来のバリュー投資家であれば配当を重視しません。
実際、自分は特定口座のBTIからの配当は約22%の税金がかかっています。これは日英の条約によるものらしく、10%がイギリス、12%が日本の税金であるようです。それに対し、NISA講座のBTIからの配当は無課税です。特定口座とNISA口座合わせて$800ほどの配当が毎年得られていて、確実にキャッシュを稼いでくれているためBTIへの投資には満足しています。安定したキャッシュフローのありがたみを感じますね。
日本人であれば、以下の条件に当てはまる人はBTI株の保有を検討してよいと思います。
未曾有の円安の時代、弱い円建ての資産だけを持つのはリスクかもしれません。 弱い円しか持っていないと、海外の資産を買いづらくなってしまうからです。自分は海外の資産を買いやすくしたいと思い、為替リスクを取ってでもドル建てのキャッシュフローを得るためにBTIを買っていました。 実際、ドルのキャッシュフローがある程度得やすくなったため、ドルの配当の再投資もできるようになってきました。
ただし、今後も円安が続くという保証はないため、新しくドル建ての資産を買いたい人は気をつけた方が良いでしょう。 為替リスクをあまり許容できない方は、少しずつ買っておくのをお勧めします。