[銘柄分析] SHOEI - 高収益・高成長・高安全性を併せ持つプレミアヘルメット製造企業に迫る
作成日: 2023年11月05日
更新日: 2024年09月07日
はじめに - SHOEIの銘柄分析の前に -
いがらしは米国株を中心に投資しているのですが、日本株にも関心があります。
最近注目しているのがSHOEI (TYO: 7839)です。
SHOEIは主にオートバイ用のプレミアムヘルメットを製造している企業です。
1992年に経営破綻していますが、経営再生に成功して以降は順調に売上を伸ばしています。
SHOEIの経営指標のなかで特に注目するべきは高い資本効率性です。
かの有名な伊藤レポート 1.0では、典型的な日本企業のROEが低い水準(5%程度)にあることを指摘していますが、SHOEIの最新のROEは23.5%と驚異的な数値です。
SHOEIの高いROEは何に由来するのでしょうか。
まずSHOEIの事業について詳しく調べ、投資対象として適格なのか銘柄分析をしてみましょう。
SHOEIの事業
前述したように、SHOEIは、オートバイ用のプレミアヘルメットを製造している企業です。
SHOEIのヘルメットの販売価格は5万円から10万円とお高めですが、高いブランドと付加価値により全世界の市場に広く受け容れられ、プレミアヘルメットの分野ではほとんどの国でシェア第1位です。
SHOEIのプロダクトと競争力
SHOEIのヘルメットは高い安全性と機能性と生産性を併せ持つだけでなく、Bluetoothでスマホと接続して動作するナビゲーション機能を搭載したり、顧客の頭の形状にフィットさせる仕組みを構築する等、強靭な競争力を持ちます。
投資家として特に注目するべきなのは、SHOEIのヘルメットは高価であることです。
SHOEIのヘルメットは独自の付加価値を有するブランド品なので、価格競争とは無縁です。
オートバイのライダー全員がSHOEIのヘルメットを買うことはないでしょうが、SHOEIのヘルメットを愛用するライダーは3年程度でヘルメットを買い替えてくれるわけですから、安定した売上に繋がります。
筆者もオートバイやバイクには乗らないのですが、SHOEIがYoutubeで出していたプロモーション動画がとても良かったです。こういうところも競争力につながっているのでしょう。
SHOEIの売上の地域構成
SHOEIの2022年9月発表の地域別の売上高は次の通りです。日本だけでなく、欧州や北米、アジアの売上高の比率が高く、SHOEIのブランドが浸透していることがわかりますね。
日本 | 欧州 | 北米 | アジア | その他 | |
---|---|---|---|---|---|
売上 | 50億円 | 102億円 | 26億円 | 51億円 | 6億円 |
2022年9月期 決算短信〔日本基準〕(連結) | SHOEI
2023年7月末の決算短信を見ると、コロナ流行時に旺盛だったバイク移動の需要が落ち着き、SHOEIの代理店における在庫も増えつつあるようです。
しかし、「規格改定による新モデル需要もあり、今後、需要が決定的に減退するとは考えておりません」ともあります。
SHOEIの確固たるブランドや顧客が望む製品の開発力などを見ると、説得力のある言説と思えます。
いずれにせよ、コロナ流行時の一時的な好景気が過ぎ去っただけのことであり、人々はオートバイやバイクには乗り続けていますし、オートバイ用のヘルメットの需要がなくなることはないと筆者は考えています。
ポストコロナかつ上述の世界経済の現状下、先進国及び中国市場を中心にか つての勢いが衰えてきており、代理店の在庫も増加してきています。しかしながら、規格改定による新モデル需要 もあり、今後、需要が決定的に減退するとは考えておりません。
2023年9月期 第3四半期決算短信〔日本基準〕(連結) | SHOEI
投資対象としてのSHOEI
ここまでSHOEIの事業内容や売上高、競争力について見てきてました。
これらがSHOEIをどんな企業たらしめているのか、投資対象としてはどうなのか見て見ましょう。
SHOEIの収益性
前述したSHOEIのブランドや高い価格設定が生み出すのが、高い資本収益性です。
2023年6月時点でROAは19.3%, ROEが19.3%と、日本企業どころかアメリカ企業と比べても非常に高い数値です。
合わせて素晴らしいのがROICで、22.6%というROICを誇ります。
SHOEIに投資した場合のリターン - 成長性
SHOEIの成長性についても考えてみましょう。
まず、SHOEIのフリーキャッシュフローの2014年から2022年にかけての年平均成長率は8.4%です。
この数値を元に、SHOEIの内在価値を計算してみます。
SHOEIの内在価値
SHOEIの内在価値をフリーキャッシュフローによるDCF法で計算するために、以下を仮定してみます。
- 現在のフリーキャッシュフローを41億円(2022年9月の値)
- 今後10年後までの成長率を8.4%
- 今後10年後から20年後までの成長率を2.8%
- 20年後の事業価値をゼロとする
- 割引率を4.6%
- 2023年11月の米国10年債利回りUS10Yのおおよその値
すると内在価値での時価総額は980億円程度、株価に直すと1824円程度ということになります。
これはかなり厳しい仮定で計算した値なので、私の中でのSHOEIの内在価値の下限は1824円です。
(ちなみに、2023年6月30日時点でSHOEIは129億円の現金を持っています。この現金は1株あたり240円になるので、SHOEIの事業が1株あたり1600円程度の価値を生み出していることになります。)
上記の仮定のうち、20年後までの事業価値も考慮すると、1株あたりの内在価値は2600円程度です。
この2600円が私の中でのSHOEIの内在価値の上限です。
SHOEIの内在価値と現在の株価の比較
2023年11月5日現在のSHOEIの株価は1株あたり2064円です。
内在価値の範囲を1824円から2600円とすると、現在の株価は安いと言えるかもしれません。
ただし、私の中の内在価値の下限の1824円より13%程度高いので、margin of safety (安全域)が確保できず、いま投資するのはリスクが高い気もします。
買うならば10年以上保有しようと思うので、多少高かろうと問題ないのですが、少しでも安く買おうとして待ってしまいます・・・
(バフェットは少しでも買おうとはせず、ほどほどの価格で買うことを勧めているので、あまりよくないのですが)
いずれにせよ、来年以降のアメリカ経済の様子を見て買うと思います。
仮にアメリカ経済が多少の不景気に陥るのならば、SHOEIの北米市場での売上が落ち込み、SHOEIの株価が下落して安く買えるかも?しれません。
SHOEIの配当
SHOEIは株主への還元にも積極的で、2013年から連続して増配しています。
現在の年間配当利回りは2.71%と立派な高配当株の一角ですね。
SHOEIの財務状態 - 安全性
SHOEIの収益性や成長性が素晴らしいことはわかりました。
安全性についてはどうでしょうか。ここでいう安全性とは「企業が倒産する見込みがどれだけ少ないか」を指します。
企業が倒産するのは負債を返済できなくなったときです。
というわけでSHOEIの貸借対照表を見てみましょう。
2023年6月30日時点で129億円の現金を持つ一方、流動負債は45億円、固定負債は10億円程度ですから、理屈上は負債を全て返済しても余る現金を持っていることになります。
2023年9月期 第3四半期決算短信〔日本基準〕(連結) | SHOEI
営業活動によるキャッシュ・フロー/支払利息で定義されるインタレスト・カバレッジ・レシオを見ても710倍という驚異的な数値です。
つまりSHOEIの安全性は非常に高いことになります。
アメリカだと手元の現金を少なくして投資し、負債を適度に使うことでレベレッジをかけて高い成長性を実現させている経営をしている企業は数多い印象ですが、SHOEIのように高い収益性・ほどほどの成長性・高い安全性を併せ持つ企業は稀有だと思います。
SHOEIは、借金をする必要がないほど稼ぐ力が強いということなのでしょう。
SHOEI のキャッシュフロー・コンバージョン・サイクル(CCC)
最近の企業では、キャッシュフローに着目した経営がおこなわれることがあります。
重要な指標として知られるのはキャッシュフロー・コンバージョン・サイクル(CCC)です。
CCCとは、棚卸資産がキャッシュフローに変換される(つまりり商品が現金に変わる)のがどれだけ早いかを示す指標で、短ければ短いほどよいです。
CCCは以下の式で定義されます。
CCC = 在庫回転日数 + 売上債権回転日数 - 仕入債務回転日数
つまり、CCCとは余裕資金がない場合に借入で運営資金を賄わなくてはいけない期間を意味し、支払利息を最小化するためにCCCを管理しておくことが重要です。
AppleなどがCCCを最小化して経営の効率性と安全性を高めている企業の筆頭ですね。
SHOEIのCCCを計算してみましょう。
2023年9月のB/SとP/Lから、在庫回転日数と売上債権回転日数と仕入債務回転日数を計算してみました。
在庫回転日数 | 売上債権回転日数 | 仕入債務回転日数 |
---|---|---|
65.3日 | 27.6日 | 9.7日 |
プレミアムヘルメットという高級品を扱っているからか、在庫回転日数が高いのがネックですね。
これからCCCを計算すると、SHOEIの2023年9月付のCCCは83.2日になります。
つまり、ヘルメットの在庫が現金に変わるまで3ヶ月弱かかっていることになります。
CCCが3ヶ月弱となると、在庫が現金に変わる効率がやや悪い印象ですが、SHOEIは無借金経営なのでほぼ問題ないのでしょう。
SHOEIの銘柄分析の結論
この記事では、オートバイやバイクのライダー向けのプレミアヘルメットを製造・販売しているSHOEIについて紹介しました。
SHOEIは、過去に経営破綻するも見事に再生を果たし、現在は収益性・成長性・安全性を併せ持つ超優良企業になっています。
経営陣は相当なやり手ということでしょう。
投資家にとって腕のいい経営者ほど頼もしい存在はありません。
長期投資の対象としてはSHOEIはうってつけだと思います。