作成日: 2025年03月23日
更新日: 2025年05月15日
アサヒHDは、日本を代表する飲料メーカーです。飲料メーカーは比較的変化が少なく、安定した収益を生み出す企業のため、長期投資家に人気があります。 かつ、アサヒHDは特に日本において人気が確立されたブランドを持っているため、安定した成長を維持しています。
この記事では、長期バリュー投資家のいがらしの投資手法をもとに、アサヒHDの投資価値を分析します。
アサヒHDは、アサヒビール、アサヒ飲料、アサヒ食品などを擁する持株会社です。https://www.asahigroup-holdings.com/brands/ によると、以下のブランドを持っています。 アルコール、清涼飲料水、食品、健康サプリといった分野で有名なブランドですね。 カルピスなどは買収したブランドです。
特にカルピスは日本を代表する乳酸菌飲料で知名度が高く、派生商品もたくさん生まれています。 これらのブランドがアサヒグループの競争優位性であり、「経済的な堀」なのです。 ですから、アサヒHDの経営としては、これらのブランドの価値を向上させることが重要です。 例えば、2024年12月決算短信では以下の施策が紹介されています。
https://www.asahigroup-holdings.com/ir_library_file/file/2024_tanshin_4q.pdf
特にスマートドリンキングの推進や機能性表示食品の発売などは社会的な意義が高いでしょう。 こうした取り組みを通じて企業価値の向上を目指していると思われます。
https://www.asahigroup-holdings.com/company/plan/ によると、「おいしさと楽しさで“変化するWell-being”に応え、 持続可能な社会の実現に貢献する」を長期戦略のコンセプトしています。目指す事業ポートフォリオとしては「ビールを中心」とあるので、今後も祖業であるビールが主力に据えられるようです。
https://www.asahigroup-holdings.com/company/message/ によると、2025年は以下のようなReginal Headquarters (RHQ)を設定するようです。
日本では前述のアサヒビールをはじめとしたブランドが強いようですが、ヨーロッパやアジア太平洋では現地のブランドが強いようです。
自販機事業や直営店、オンラインストアでは飲料の小売をしている場合があるようですが、基本的には製造した製品を卸売業者や小売業者(スーパー、コンビニエンスストアなど)を通じて消費者に販売するビジネスモデルが中心です。
https://www.asahigroup-holdings.com/ir/financial_data/statement/ を参照しつつアサヒHDの財務分析を行います。
まずB/Sを見てみると目を引くのは現金の少なさでしょう。総資産の1%強しか現金がありません。 資産全体を占める流動資産の割合は15%程度と小さいです。 日本企業では珍しい資本配分だと思います。
このように現金や流動資産が少ない企業では資金繰りが不安定になりやすいのですが、飲料のように安定した需要を持つ製品を扱いキャッシュを創出する能力に優れた企業ではそうでないこともあります。サントリーHDではどうでしょうか?CCCという指標を計算することで、企業がキャッシュを創出する能力を測ることができます。
CCC = 在庫回転日数 + 売上債権回転日数 - 仕入債務回転日数
https://www.asahigroup-holdings.com/ir/financial_data/statement/ によると、以下のような値を計算できます。
売上債権回転日数: 54日
棚卸資産回転日数: 53日
仕入債務回転日数: 142日
CCC: -34日
と、CCCはマイナスとなり非常に優秀な数値であることがわかります。これだけキャッシュ創出する能力高いので、現金や流動資産が少なくても資金繰りが不安定になることはないでしょう。
2024の統合報告書のCCCに関する言及を引用します。
事業利益の増加に加え、サプライチェーンリスクが顕在化してきた際、製品の安定供給のために積み増した棚卸資産の適正化や、売掛債権や支払債務における施策にも引き続き取り組んだことで運転資本を改善し、着実にCCC(キャッシュコンバージョンサイクル)を短縮したため、計画を上回る営業キャッシュ・フローを創出することができました。
https://s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/asahigroup-doc/company/policies-and-report/pdf/2024_all.pdf
CCCをこれだけ短くすることができた理由は複数あるのでしょうが、1つはAsahi Global Procurement Pte. Ltd.(AGPRO社)設立によるサプライチェーンの最適化があるでしょう。AGPRO社はシンガポールに所在するアサヒグループのグローバル・各地域・各国の調達機能を統合した組織だそうです。
https://www.asahigroup-holdings.com/newsroom/detail/20230809-0102.html
https://s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/asahigroup-doc/company/policies-and-report/pdf/2024_all.pdf によると、過去にはそれぞれのRegional Headquartersが同一のサプライヤーに交渉するということがあったようで、調達業務を効率化するためにAGPRO社を設立したということです。
ブランドの買収をしているため、アサヒHDは多額ののれんを持っています。 実際に2024年末の資産の62%がのれんです。よってブランドの毀損などがあると大きな損失を被る可能性があります。
またアサヒHDの工場施設などが計上されている有形固定資産の資産全体の割合は17%と小さいです。2024年末のサントリーは21%程度、キリンは31%程度ですから、アサヒは固定資産が少ないと言えます。固定資産が少ないと設備投資や減価償却の額が小さくなったりと利点があります。これらの特徴をアサヒHD、サントリー、キリンの比較表にまとめました。
項目 | アサヒHD | サントリーHD | キリンHD |
---|---|---|---|
資産に対するのれんの割合 | 62% | 14% | 20% |
資産に対する有形固定資産の割合 | 17% | 21% | 31% |
--- | --- | --- | --- |
売上に対する減価償却費の割合 | 0.03% | 0.05% | 0.037% |
売上に対する設備投資費の割合 | 0.05% | 0.08% | - |
サントリー https://www.suntory.co.jp/softdrink/ir/library_earnings/upload/2024_4q_hosoku.pdf
キリン https://pdf.irpocket.com/C2503/KHnJ/LDzJ/o03n.pdf
これらから以下がわかるでしょう。他社よりアサヒHDに軍配が上がるように思えます。
2024年末のアサヒHD、サントリー、キリンの収益性やを比較します。
項目 | アサヒHD | サントリー | キリン |
---|---|---|---|
売上高 | 2.9兆円 | 1.5兆円 | 2.1兆円 |
営業利益率 | 9.2% | 9.4% | 5.4% |
純利益率 | 6.5% | 5.5% | 2.5% |
ROE | 7.2% | 7.7% | 4.9% |
ROIC | 4.1% | 9.4% | 2.5% |
他社と比べると、アサヒHDは売上規模やコスト削減効果による収益性には優れる一方、ROEやROICは低いため資本効率は見劣りすると言えると思います。
アサヒHD、サントリー、キリンの財務健全性を比較します。
項目 | アサヒHD | サントリー | キリン |
---|---|---|---|
自己資本比率 | 49.4% | 58.8% | 35.2% |
総資産に対する社債や借入金が占める割合 | 15% | 13% | 19% |
バフェットは「本当の優良企業は負債と必要とせず、自己資本で事業を運営できる」と言っていますが、アサヒHDはM&Aを盛んに行っていたため、ある程度の借り入れを行なっています。そのため、https://s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/asahigroup-doc/company/policies-and-report/pdf/2024_all.pdf によると現在は務健全性の向上に取り組み、ある程度の改善ができたとのことです。
バフェットのOne Dollar Premiseによると、利益剰余金1円あたりに株価が1円上がっていないといけません。
年 | 利益剰余金 | 時価総額 |
---|---|---|
2009年12月 | 0.25兆円 | 0.8兆円 |
2024年12月 | 1.4兆円 | 2.5兆円 |
(データはhttps://irbank.net/E00394/bs、https://irbank.net/2502/cap から引用)
よって利益剰余金が1円増加するごとに時価総額が1.7円増加させていることになります。
アサヒHDについて詳しく見てきました。好印象だったのは際立つCCCの低さとキャッシュフローへの意識です。日本企業としては非常に先進的かつ合理的な経営、ファイナンス戦略を行っていると言えるでしょう。